「塚本由晴・西沢大良 『現代住宅研究』」
塚本由晴・西沢大良 『現代住宅研究』
分類という行為
本書は二十世紀後半の日本住宅を丹念に調べ上げた図鑑のようなものである。著者によれば本書作成の経緯は次のような手順による。先ず二十世紀後半の住宅を五00程度リストアップし、次にそれらを批評する切り口(ハイブリッド、空、窓等)を日常生活の事や物の中に探す。そして五0程度見つけた切り口(彼らはそれをアイテムと呼ぶ)ごとに一つの論を綴る。それぞれの論には平均七つくらいの住宅が登場し、その結果計三百五十ほどの住宅が論じられる。
本書はもちろん三百を超える住宅の図鑑として、(概ね全てのセームスケール図面も付いている)その検索機能に意義があるとも言えるのだが、それにも増して興味深いのは彼らがアイテムと呼ぶ、ものの切り口、結果的に三百を超える住宅を五十に仕分けたその分類方法である。
一般に対象分類の近代的始祖と言えば生物学におけるカール・フォン・リンネ(1707~1778)が有名だが、人間の分類本能は自然物に限らず日常の物事、出来事にまで及ぶ。そうした本能が集団で共有される時、その分類は現象を認識し体系化する重要なシステムとなる。認識人類学ではこうした民族分類(folk taxonomy)と呼ばれる分類の語彙を調査することで対象民族の特性を明らかにしようとするi。
塚本、西沢両氏による五十近いアイテムは人類学的方法と類比的に読むことができるだろう。すなわちこうしたアイテムが現代日本の住宅をとりまく文化的な体系のひとつの顕在化であるという風に。
もちろん五0近いアイテムは客観的な調査をもとにしたものではないし、そもそも本書は人類学的な厳密さを目指したものでもない。しかし読者は知らず知らずに彼らの分類の中にはまり込んでいっているのではなかろうか?
すなわち「研究」とうたわれた本書はその客観性によってではなく創作論的直観によって説得力を持っている。つまり彼らが物を作っていくときに必要な、日本建築文化のエキスのようなものがここに示されていると見ることも可能であろう。
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i M.S.ガリバーノ木山英明・大平裕二訳『文化人類学の歴史』新泉社2001
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初出 五十嵐太郎編『建築都市ブックガイド21世紀』彰国社、2010