「ロバートヴェンチューリ『複合性と対立性』」
図 ギルド・ハウス
反モダニズムの流れ
その昔ニューヨークに行った時カーン、ヴェンチューリを見たくフィラデルフィアへ、足を延ばした。地図を片手にタクシーでギルド・ハウス(図)を目指すのだが、際立った特徴のないあまりに普通なその建物の前を何度も通り過ぎてしまったことを思い出す。
本書はギルド・ハウスの竣工後間もなく出版された。第一章の中で著者はモダニズムを念頭に置きながらその逆の価値を称揚する。曰く「私は「純粋なもの」より混成品が、・・・・・直接的で明快なものより、矛盾にみち両義的であるものが、好きだ。・・・・」そして以降十の章で多様性、対立性(矛盾)、複雑さなどの反モダニズム的価値を見直す。最終章で作品解説を行い、ギルド・ハウスはスケールの変化で緊張感を生み「普通のようにも見え、また同時にそうでなくも見える」ものを目指したと説明する。ギルド・ハウスの見つけづらさはこの反モダニズム的手法にあった。
一九七二年ヴェンチューリのもう一つの古典的名著『ラスベガス』が出版され本格的に反モダニズムが世界的潮流になった。アメリカでは一九七四年UCLAにおいてモダニズム的ホワイト派とそれに対立するグレイ派の公開会議が開かれた。ホワイトはコーネル、プリンストン、グレイはイェール、ペンシルヴェニア出身者で形成された。もちろんペン出身のヴェンチューリによる本書がグレイ派の理論的主軸であったことは想像に難くない。ヴィンセント・スカーリーは本書の初版で「ル・コルビュジエの『建築を目指して』以降建築について書かれた本の中で最も重要なものだ」と述べ、十年後の再販でこの発言を肯定した。そしてそれから三十年後の現在、(モダニズム的な)ヒロイックな建築が後を絶たない一方で、凡庸さと紙一重のヴェンチューリアンデザインも依然として建築界を席巻している。ヴェンチューリ理論の射程の長さを痛感せざるを得ない。
関連図書 R・ヴェンチューリ、伊藤公文他訳『ラスベガス』鹿島出版会、一九七八
初出 五十嵐太郎編『建築都市ブックガイド21世紀』彰国社、2010