「建築学科の必須科目」
1、日本の建築教育
日本の建築教育は世界標準と少々違う。それは日本の建築学科の殆どは工学部(あるいは大学によっては理工学部)に所属しているのだが、世界の建築学科は建築単独あるいは都市デザイン、グラフィックなどと一緒になって建築○○学部という形で独立した学部となっているという点である。それが意味することは世界の建築学科は日本の建築学科で学ぶ3本柱である1)意匠2)設備3)構造の中の1)意匠を学ぶ場なのであるのに対し日本ではこの3つの分野を3年生までの間は同等に学ばなければいけないということである。そして4年生の研究室配属の時点で3つの内一つを選択してより専門化するのである。
2、私の学生時代
1年生になったばかりの学生諸君の入学動機は人それぞれだろう。現在は環境問題が叫ばれ、大地震が災害をもたらしたことなどから環境や構造をやりたいと思って来た人も沢山いるはずだ。一方僕が学生時代は多くの人が設計をしたいと思って建築学科に来たものである。僕もそういう学生の一人で最初から設計をしたいと思い、設備、構造の勉強もしなければならないということを後で知ってちょっと大変だなと思った記憶がある。正直言えばその手の授業は結構サボった。その頃は教師ものんびりしていて出席を取る先生などいなかったし試験が通ればいいよという感じであった。
3、教師として考えること
さて現在教師として学生を教えながら思うことは二つある。一つ目は僕がサボった授業はこれからの建築を考える上でやはり必須であるということ。建築家として仕事をしていても設備や構造の知識は必ずいる。必要最小限のことはどれも学ばなければいけない。そして二つ目は、恐らくどの分野に4年生で進むことになるとしても必須の勉強だけやっているだけでは4年生になってさあ専門をやるぞと言う時点では知識が少々足りないという点である。自主的に学ぶことが必須である。これは日本の建築教育の落とし穴のような気もする一方、学ぶということは本来そういうものだとも思う。すなわち広い裾野を獲得した上に自らの力で頂上を目指すという姿勢が必須である。その意味では建築学科の必須科目とは大学で決められている科目のことではあるまい。それは必要条件であり、十分条件にはならない。自らの進むべき方向を見定め自らが見定めた内容こそが必須科目なのである。
「ようこそ建築学科へ!: 建築的・学生生活のススメ」所収
五十嵐太郎 監修
松田達・南泰裕・倉方俊輔・北川啓介 編著
学芸出版社 本体1,800円+税