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Dec 2008

ナショナリズム

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by 卓 坂牛

アサマの中で昨日読み始めた『民族とネイション』を読み終える。因みに昨日引き合いに出した「ナショナリズム」について、この本では様々な解釈が紹介されている。そのひとつに次のようなものがあった。「エスニックナショナリズム」と「シビックナショナリズム」という対概念である。これはエスニックな構成員のまとまりを重視する立場と、構成員については多様性を認めルールによる国家というまとまりを重視する立場とを対比させた概念である。前者の例は例えば東欧諸国の民族自決がそれである。後者の例は昨今のアメリカなどであろう。冷戦構造が崩壊しグローバル化が促進されればされるほど境界の意識は顕在化する。グローバールとローカルの拮抗は当分政治的にも文化的にも大きな問題である。午後大学でm2のゼミ。終わって多量なメールを確認返信。明後日のシンポジウムのパワポをチェック。「国際山岳建築シンポジウム2008信州」http://ims.shinshu-u.ac.jp/081211.pdfと題して僕も30分話し、その後数名のシンポジウム。30分しかない上にドイツ語の翻訳も入るので厳選しないと何も言えずに終わりそう。山岳建築について信州で会議をするなんていうことは典型的な文化的ローカリズムである。そしてこうしたローカリティをグローバルに連結させることはもはや時代の趨勢なのだろう。送られてきたカーサブルータスが「ニッポンの旅」特集。松本もいろいろ出ている。おっ、よく見ると明後日泊る予定の「旅館すぎもと」が小さくでいていた。有名な旅館なんだ。

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by 卓 坂牛

朝一でk-project現場。足場に乗って周囲をぐるり。トップライトが全部ついて昨日の雨も問題がなかったようだが、まだディテールが完ぺきではない。地下ピットスリーブ回りのおさめその他気になる点の修正を所長にお願いする。この建物では家具が単なる収納ではなく建築の構成の重要な位置を占める。その材料として、二タックスのベニヤを指定していたのに工務店が拾い忘れいてた。そこで大工さんと相談していたら二タックスを5ミリずつ切ってランバーコアの木口に貼り付けようと言いだした。凄い発想。とその自信。ちょっと嬉しい提案である。内装の色の気になるところなど1/30の模型を作ってスタディするよう担当のT君に指示。年内には外装が張られる予定。木造でシルバーの外装は初めて。午後自宅で作業。夕方事務所で打ち合わせ。会計事務所から質問メール。電話で返答。帰宅後塩川伸明『民族とネイション―ナショナリズムという難問』岩波新書2008を読む。エスニック、民族、ネイション、ステイトという語の定義から始まり、その言葉のはらむ問題に迫る。この本にも指摘されているがこれらの語の定義も使用法も時代と人で大き変わるという。昨日読んでいた本にはナショナリズムとは国家主義ではなく、国民主義であると書いてあったが、さて今日の本ではいかに?

保守を思う

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by 卓 坂牛

いろいろと用事が会って都内を駆け巡っていた。師走である。昼間事務所によると、年末のレイアウト変更の際のダンボール詰めは120箱になるとのこと。まあそうだろうなあ。大変そうだ。夜帰宅して昨日の佐伯さんの『自由と民主主義をもうやめる』を読み終えた。保守という概念がアメリカではヨーロッパのそれからほぼ180度転回したことを再確認する。そりゃそうだ。ヨーロッパがいやになって新大陸に行ったのがアメリカ人。だから彼らの保守はヨーロッパにとっては革新だ。そして著者はこのアメリカ流保守ではなくヨーロッパ流保守を守るべくこんなタイトルの本を書いたわけだ。しかしどうも伝統論者の愛国の話になると僕はついていけない。なぜ保守主義者と言うのはアプリオリに文化というものを歴史と伝統の上に置くことを疑わないのだろうか?先日の朝日の論説主幹の言葉を思い出す。「君が代斉唱の権利を否定しないが斉唱しない権利も認めるべきだ」。同様に、文化は伝統の上に成立することを否定はしないが、伝統がなくても生まれ得る文化の存在も僕はその可能性を否定しない。だからこその文化の多様性と意外性が生まれるのであろう。保守主義者の文化論は静的で耐えがたい。

シージェイ・リムのドローイング

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by 卓 坂牛

今日は事務所到着一番。まだ日直も来ていない。僕の家が事務所に一番近いのだから、まあ当然かも。僕の次にスタッフのT君、そしてYさん。坂牛チームがやってきたので、さっさと打ち合わせをする。九州プロジェクトはコストの方向性がはっきりしないのだが、コストコントロールをしない契約なのでそのあたりは現地にお任せ。こちらは残りの図面づくり。午後は来年の早稲田の書類やら信大の事務書類やら作成。夜、南洋堂にシージェイ・リムの展覧会オープニングに出かける。今村君が企画した展覧会。シージェイは日本初の個展だが、この時期に同時に3つの会場で彼の作品が展示されているとのこと。とても温和な誠実な感じの人でありゆっくり話したかったが、人も多く先に失礼した。南洋堂にはドローイングだけしかないがこれが実にうまい。繊細な手書きのドローイングに紙の切り抜きと厳選されたレタリング。余白が多いが計算された美しさである。CGがあまりに無計画に多用される昨今、こういうドローイングは清々しい。特に無意味にただ大きいだけの模型写真と余っちゃった余白しか作れない学生は見習ってほしいのだが。南洋堂に行く前に三省堂に寄って本をぺらぺら。もう政治本は買わないつもりだったが、タイトルに誘われて『自由と民主主義をもうやめる』幻冬社2008を買って読む。著者は京大保守派の佐伯啓思。保守ではない私だが、保守とそうでないものとの差が混乱する中、本当の保守とは何なのか?自称保守の彼の意見も拝聴しよう。

原美術館に嫌われた

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by 卓 坂牛

先々週見逃してしまった米田知子の写真展を原美術館に見に行こうと昨晩決めた。今朝起きたら、森美術館でインドの現代アーとやっているのを思い出した。その上朝食をとりながらテレビをつけると日曜美術館でワイエスを紹介していた。僕の最も好きなアーティストの一人である。さて困った。どれを見るか?米田は外せない。森美術館は近い。森に行って原に行くことにする。チャローインディアを見て大江戸線で大門に出てjrで品川。タクシーで原美術館。いやな予感。門が閉まっているではないか。昔もこういうことがあった。どうもここに来るときは会期をきちんと見ない癖がある。米田知子は先週で終わっており、今日は準備期間で閉館であった。ショック。仕方なく五反田に出てjrに乗る。渋谷で降りてワイエスを見ようか迷ったが新宿経由で帰宅。午後インド展のカタログを読み、ネットに感想など記しながら、テレビで早明ラグビーを観戦。嘘みたい。リーグ戦2位の早稲田が6位の明治に負けちゃった。先週は東海が明学に勝つし、番狂わせの連続である。
最近政治本を読み続けていた。大澤真幸の『自由の条件』を読んだあたりからもう少し突っ込んで状況を確認したいと思ったからだろう。それでアメリカの保守化、右傾化、日本の左右などを読んでみて一段落である。今日は高橋悠治のアンソロジー『きっかけの音楽』2008を読む。武満もそうだが正直言って音楽家の文章は建築家のそれ同様分かりづらい。グールド批判などは分かりやすいのだが抽象論になるとちょっとつらい。

初冬

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by 卓 坂牛

12月6日
午前中代々木公園に所用で行く。終わってから公園を散歩する。昨日の雨も上がり、初冬の公園は清々しい。ベンチに座って本を読んでいるとその昔UCLAの木陰の芝で寝転がって読書した感覚がよみがえり懐かしくなる。疲れて近くのカフェで続きを読みながら昼をとる。仲正昌樹編の『現代思想入門』php2007をつまみ食い。現代の思想史の中で一体リベラリズムがどう位置づくのかを見ておきたかった。その部分を書いているのは北田氏。ロールズ、ノージック、ポパー、ローティーの位置づけや、リベラル、リバタリアン、新保守、権威主義の差を生み出す基軸も明瞭になる。門外漢には入門書も便利である。帰宅して若宮啓文『闘う社説』講談社2008を読む。朝日の論説主幹であった著者の2002年から2008年3月までの社説づくりの闘いが語られている。戦いと言うのはもちろん様々な意味で使われているが、右よりの読売、産経社説との応酬の意味が強いようだ。ナベツネ(つまり読売)が靖国参拝について手のひらを返したように反対の意を表し著者と対談し『論座』に掲載されたなんていうことがあったのには驚いた。やはり新聞も世論には勝てないということか。夕方風呂に入りながら小坂修平『思想としての全共闘世代』ちくま新書2006を読む。昨日呼んだ『I LOVE過激派』に通ずる60年安保から70年代にかけての闘争史である。この本、既視感ならぬ既読感があると思って本棚を探ると同じ本が出てきた。2年前に読んでいた。

I LOVE 過激派

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by 卓 坂牛

10時前に長野駅に着いたら結構な雨である。傘をさそうとして事務所から留守電が入っているのに気づく。この雨だと自転車に乗りながら電話をするわけにもいかない。仕方なく駅構内で電話。内容が込み入っていてなかなか切ることもできないし、講義の時刻も迫ってくるし慌てた。
午前中講義、午後製図。後期後半課題の最初のエスキス。学生はテーマシート(コンセプトをポスターのように描いたもの)を作成してきているのだが、これがひどい。何だこれ?ヤル気あるのか?一気にエスキスの気力を失う。
製図後に飯食って雑用を片付け7時半のアサマに乗った。すると本庄早稲田あたりで「何か」が起ったらしく、軽井沢で電車が動かなくなった。止まること2時間半。その間、早見慶子『I LOVE過激派』彩流社2008を読む。この本は何かの書評に載っているのを見てamazonに注文したもの。著者は1958年生まれだから僕の一つ上。理科大の薬学科在学中から活動を始め共産主義同盟の戦旗派の中で活動していった人である。過激派と呼ばれる組織の中でのオルグ、山岳訓練、そしてアジトでの洗濯、睡眠、そして恋愛まで。普通の一人の人間像が見えてくる。ほとんど同い年の活動家の生活や信条には素直に共感する部分もあるのだが、理解を超える部分も多々ある。しかし、同じ時代に起きた事件の裏側が透けて見えるようでありとても興味深かった。日本の新左翼のこうした活動は昨今社会学者(北田や大澤)が分析し始めている。しかし僕には抽象化された彼らの言葉は実感としては伝わりにくい。それは、僕が社会学のセンスを持ち合わせていないか?あるいは無意識のうちに新左翼の活動に肩入れしているからか?よくわからないが。

年末雑務に追われ

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by 卓 坂牛

今日は自宅勤務である。事務所の年末調整とか、年末のアルバムとか、いろいろ登場する書類の整理に追われる。その間事務所からくるメールを見ながら、(目と鼻の先なんだから事務所まで行ってもいいのだが)、電話とメールでやりとり。K-PROJECTの界壁遮音性に悩まされる。透過損失55DB(マンションの界壁程度)程度欲しいのだが現状とれていない。明日までにそれを可能とする最も安い改善措置をクライアントに提示しないといけない。しかしネットは便利だなあ。欲しいデーターは30分もあれば手に入る。細かいところは明日スタッフに調べてもらえばなんとかなりそうである。夜は飯山雅史『アメリカの宗教右派』中公新書クラレ2008の続きを読む。アメリカは自由奔放の国である故自由奔放であることを守るのが右であり保守。それに対して国の関与を増やして富の再配分を行うのがリベラルであり左。ここを間違えるといろいろなことが逆になる。

トップライト

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by 卓 坂牛

朝一でk-projectの施主定例。現場は毎日凄い職人数である。今日は大工3人、板金屋1人、ガラス屋4人、それから知らない職人数名。クライアントは1月から転勤だそうだ。ある大きな支所の支所長となるとのこと。家を建てると男は病気をするか転勤になるとよく聞く。僕のクライアントにもよくおこる。連窓の家#1では竣工とともに転職。連窓の家#2では竣工と同時に転勤。そして今回である。しかしいずれも栄転なのでめでたい。せっかく作った家が当分お預けとなるのは可哀そうではあるが。今日はガラス屋4人がかりでトップライトのガラスを屋根に引き上げていた。でかいだけに一枚あげるのに1時間近くかかる。はまった場所を下から眺める。ああトップライトはいい。ガラス越しに見る空は大好きである。そしてこの空が内部化されると思うとなかなかこれはいい部屋になりそうである。空と段差と家具の低さ。この取り合わせは今までの僕の設計にはない動きを感じる。
午後事務所に戻る。昔のクライアントが来所。施工した工務店が倒産となり今後のメンテナンス方法などの相談である。昨今この手の話はいろいろ聞くが、困ったものである。こういう場合の対応はケースバイケースでしかない。倒産と言ったってさまざまである。

電話

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by 卓 坂牛

電話、電話、朝から方々へ電話。電話嫌いの僕でも電話しなければならないこともある。電話嫌いといってもメールより好きである。メールは電話以上に誤解を多く生むのでむずかしい。相手への暴力ということを差し引けば電話の方がメールより効率的なコミュニケーション手段である。瞬時に言いたいことの核心へ迫れる。メールが有効なのは一回に多数へ情報を送る時と、一回に多量の情報を送る時だけだ。
その昔親父が毎朝電話をしまくっていたのを思い出す。少なくとも2時間はしていただろうか、相手の人数は分からない。しかも自宅の2階の自分の部屋の窓を全開にして近所に対して演説するかのごとくであった。これはなんとも恥ずかしかった。
午後事務所でパートナーたちとレイアウト変更について延々議論。下階にもうひとつ机をいれるかどうかでああでもないこうでもない。下の階の席をひとつ増やして模型コーナーを元に戻すことに異論はないのだが、それをいかに簡単に行うかで焦点が定まらない。しかし結局最初の案に戻る。3日がかりで、レイアウト変更と大掃除を行う方針決定。その後九州プロジェクト、k-project打ち合わせ。夕刻、読みかけ本に加えもうひとつアメリカ右傾化の本、飯山雅史『アメリカの宗教右派』中公新書クラレ2008を読む。アメリカ人口の4分の1、約7000万は福音派に属し彼らのほとんどは神が現在の地球上の姿を作ったと信じている。では残りの4分の3はダーウィンの進化論を信じているかと言えば、さにあらず。そうしたアメリカ人は国民の4分の1に過ぎない。