ユニクロの柳井正社長が自分の経営の教科書だと推奨する本がある。ハロルド・ジェニーン田中融二訳『プロフェッショナルマネージャー―58四半期連続増益の男』プレジデント社2004がそれである。その中に本は最初から読むものだがビジネスは終わりから始めてそこへ到達するためにできる限りのことをするのだということが書かれていた。それを読みながらはて?本も実は最初から読むものばかりではなかろうと思ったし、実際僕は本を後ろから読むことも結構ある。あとがき読んで結論読んでそこへ来るための材料を最初の方に探すわけである。
そう思っていたら井上ひさしも同じことをしていることを知った。まあ井上ひさしが僕と同じことをしているというより、僕が井上ひさしと同じことをしていたと言うべきだろうが。井上ひさし『創作の原点ふかいことをおもしろく』PHP研究所2011の中に本の読み方が書かれている。彼は蔵書20万冊あり1日30冊読むそうだ。松岡正剛も凄いと思ったが井上ひさしもとんでもない人である。
曰く「本で何かを調べるときには、先ず目次を読んでその本で著者が言いたいことを探ります。日本の学者は、たいてい結論を最後にもってきますから、まず最後の方から見るのです。そこに思ったほどのことが書かれていなければ、その本は前半もそれほどではないだろうと勝手に考えます」。
僕はもちろん30冊も読まないけれど短い時間で内容をすくいとるためには必要不可欠な方法だと思う。
昨日は2年生の製図「森の別荘」合評会だった。磯さんにゲストで来てもらってレクチャーそして講評をお願いした。非常勤メンバーは三戸 淳さん、古見 演良さん、清水 貞博さん、石川 淳さん、新堀 学さん、中島 壮さん。2年生の前期の成果としてはまあまあだろうか?どうも最後の詰めが甘いというところはあるが、、、、次に期待しよう。
磯さんの最初のレクチャーは「別荘」日経アーキ時代を含めて自分の目で見て面白いと思ったものを提示してその理由を述べてくれた。分かりづらい言葉は無く極めて明快。また講評に先立ち、一つの操作で二つ以上の効果が上がればそれを評価すると宣言していた。なるほどこれも明快である。
合評会の後に磯さんは批評家?と聞いたら自分は良い建築を人に紹介して見に行ってもらうようにしむける人だと言っていた。なるほど言っていることと目指していることが整合している。
磯さんが日経に勤め始めた年に僕が最初に作った別荘が日経アーキに掲載された。勤め始めた年であり、帰宅後設計してSDレビューに入れてもらった建物である。「別荘特集でしたね」と覚えていてくれたのには驚いた。こうやって改めて見ると気恥ずかしくもあり、懐かしくもある。
高木修『経験のスナップショット』美術出版社2011の中にこんなことが書いてあった。現代芸術の作家は時代との距離の取り方で2分できる。一つは芸術の潮流に乗って浮いたり沈んだりしながら潮流の流れに逆らわないグループ。もう一つは潮位に関係なく常にある高さを保ち時代との距離感を常に保ちぶれないでいるグループである。そう言われるとそう言うことはおよそ表現と言う分野には多かれ少なかれすべてに当てはまるものだと感ずる。どっちがいいかと言うことではない。前者は常にトレンドを追いながら時代にへばりついている。あるいはその時代の一歩先を必死で追う。後者は時代を追わないのだが、しかし時代との正確な距離を測っている。それは自分勝手とは違う。単なるマイウェイでもない。こういうと後者の方が清清しくも思えるが、果たしてこんな態度は可能なのだろうかと思わなくもない。最初の一歩を踏み間違えれば一生浮かばれないではないか?一か八かの賭けのようにも思えるわけである。
そう考えると前者も後者もどうもうまくない。前者は自分が無いようで情けないし、後者は博打のようである。一番いいのは人生に2~3回転身することである。ピカソのような生き方は恐らく芸術家の理想である。まあ偉大な建築家も多かれ少なかれそうである。コルビュジエなどなど、、、
秋庭史典『あたらしい美学をつくる』みすず書房2011を読んでみた。カントに端を発する美学の基盤がもはや現代では意味を持たず現代のそれは自然科学に依拠したものであることを解く。なぜ自然科学かと言えば「自然に目を見開かせる」のが現代における「美」の役割であるからだと言う。よってこの本には芸術はほとんど登場しない。感性や直観に基づく認識論も相手にしない。必要なのは情報を取得する認識論となる。
よって眼前に現れるフォルムよりそれを成り立たせているアルゴリズムに重点がおかれ、唯一アートらしき話として電子音楽、メディアアートには言及される。逆に言えばこんなコンピューティングアートがなぜ意味を持つのかを伝統的美学から始めそのあるべき変遷の姿を描くことによって説明した書でもある。
先週は木島さんに図面チェックをしてもらった。彼女は福祉施設のプロなので。今日は玉川さんの所に行って図面をチェックしてもらった。玉川さんは児童養護施設のプロなので。やはりプロはいろいろと知っているし、言うことに説得力がある。ありがたい。午後屋根屋さんと打ち合わせ。切妻とマンサードが合体した三ツ矢平面なので複雑。そう言えば日建時代に屋根のある建物を設計したことは一度だけ。それもパビリオンだったからただの折板。独立してからは陸屋根は4つしかない。やはり日建はモダニズムだったということか?夕方九段でゼミ。講義。
朝かみさんと御苑まで散歩。帰り韓国大使館の前に10台近い右翼宣伝カーがやってきて竹島返せと大騒音。警察のバリケードで新宿通りは閉鎖状態。最近この辺りに警官が多いのはこのせいか。
木村大冶『括弧の意味論』NTT出版2011を読む。( )や「 」は近年その使用量が増えているという。それは強調であり引用であり所謂であり判断停止である。言葉の中から著者の一義的な意味性を取り除き文章の意図を宙吊りにする道具である。著者と文章の一体一対応の欠如という現代的文章の傾向を括弧は作っている。絵文字も、カタカナも同類である。
夕方事務所へ。S君が1人で図面を描いていた。頑張れ。少し話をして、模型を眺めながら考える。ああ難しい。
浦和のホテルで学生父兄との懇談会。こうした懇談会が日本全国で行われるのだからびっくりである。主催するのは父兄の側でそこに教職員が呼ばれて大学、学生の状況を報告する。加えて父兄たちと個別に面談をしながら相談を受ける。昼から6時までスケジュールはびっしり。信大でも父兄会はあったが場所は大学で父母がわざわざ遠方からやってきていた。こうして全国に出向いていくというサービスは私立故のことか、理科大の結束力なのか?そもそも相談を受けてもまだ新米の僕では答えきれないことも多く、分からなくなると事務の方を呼んで助けてもらって難なく終えた。終わって某新聞社の埼玉総支局長をしている友を呼びだし夕食をとる。原発話で盛り上がる。20年ほど前に某電力会社の原発取材をしていた彼は当時からその危険性を指摘していたが会社側は絶対安全の一点張りだったという。
今日は3年生の製図の合評会。若松均さん、宮晶子さん、木島千嘉さん、塩田能也さん、高橋堅さんの講師陣に加え五十嵐淳さんと蜂屋景二さんがゲストで来てくれた。理科大に来てから最初の講評会。そしてこの豪華な顔ぶれでやるまえからわくわくしていた。各先生の班から選ばれた二つ三つの案がプレゼンされていく。社会人が多いこの学科では。稚拙なものからプロのようなものまで多彩である。それぞれの班から出てくるものは当然それを担当している講師のカラーが反映されているわけで、講評は生徒の作品を通して講師同士の立場を批評しあうという側面も現れる。昔石井和紘の本にイェール大学でのスターリング講評会の様子が書かれていた。ゲストにマイヤー、ヘイダック、グワスミー、ジョハンセンが来てグワスミーがとヘイダックがジョハンセンやスターリングとやりあうのである。学生はもはや蚊帳の外で建築家の論戦が繰り広げられると言うわけである。こういうのも楽しい。そんな風景も楽しいと思うのだがなにせ時間が少ない。五十嵐さんのレクチャー、講評は彼の作品そのものである。素直で正直でとても清清しい。
何処を目指して何を作るのかと言うヴィジョンが建築を勉強するにあたっては重要なことだと思う。世界を目指して世界に通用する建築をつくるのか、日本全国で作るのか、長野県で作るのか?もちろんそれぞれのフェーズで作られる建築が違うフェーズで通用する場合も多々ある。しかし多くの場合それらは少し違う、あるいは違ったほうがいいいのかもしれない。グローバリズムとローカリズムがせめぎ合う今日では特にそうである。建築だけではない、洋服も食べ物もそうである。作る者には相手がある。相手をどこに見据えるかで作るものも変わる、変わらざるを得ない。
県大会か国体かオリンピックかというスポーツの世界と少し似ている。でもスポーツの場合は明確な序列で世界に行くほど強くなる。表現はそうとは限らない。世界で活躍する方が華やかではあるかもしれないが、それは必ずしも豊かであると言うことを意味しない。建築を本質論的にとらえればもちろん何処で何を作ろうともそのエッセンスは同じである。しかしもはやそれは建築の一部でしかないように思う。何処で何を作るのかそのコンテクストを捕まえないことには、就職一つ決められない。加えて社会に出てから戸惑うことになるのではないだろうか?
大学の雑務。書類づくり。コンヴァージョンプロジェクトの案を一つ固める。模型を作らねばならないのだが、、、夕方から図面チェック。まだまだ先は長いなあ。うーんお腹が空いた。帰宅後ヴィデオにとっておいたサッカーの試合を見ながら夕食。今日は午前中の10時ころにブランチをとって14時間何も食べなかった。さすがに眩暈が、、、