伊礼智さんの住宅発想
GWの日本は嵐だった。竜巻が栃木の現場近くを襲った。もうすれすれだった。その現場で外壁の色決めをする予定だったが行ってみたらモルタルのモックアップに塗られたランデックスは殆ど発色せず染み込んでしまっている。再度もっと濃い色でモックアップを作り直してもらう。
夕方事務所に戻りコンペの打合せ。アルゼンチンに送られてきた図面だけでは分からなかった隣地との関係やエレベーションが気になる。気になるのだがいい案が浮かばない。時間切れで大学へ。2年生製図の合評会。ゲストクリティークは伊礼智さん。伊礼さんの「居場所」にこだわった住宅設計はとても素晴らしい。8畳の居間に3つくらいの「居場所」を作ると言う発想は彼の美しい展開以上に魅力的な設計作法だと思う。自身おっしゃるように派手なそぶりはないけれど様々な工夫とディテールにあふれている。
伊礼賞は彼の新刊『伊礼智の住宅設計』479ページの大部の書である。合評会後食事をしながら聞くと伊礼さんは年間12棟の住宅を設計するとのこと。いやはや10年で100棟。どうやってそれらをコントロールしているのだろうか凄いものだ。凄い番頭さんがいるのかと思いきや彼がベテランと呼ぶのは6年生くらいである。入所したてから2棟くらい任すとのこと。そのくらいした方がスタッフは育つのだろう。
60ドルワインに30ドルの箱代
成田に2時に到着。日本の入国って簡単だと痛感。アメリカもアルゼンチンもだいたい1時間はかかると言うのに、日本は入国荷物のチェックは殆どない。
それにしても、アルゼンチンで一本20USドルのワインを3本買ったら、トランジットのヒューストンで機内に持ち込めず、チェックインしろと言われ専用の箱を20ドルで買わされた。日本に着いて宅配で送ろうと思ったら、宅配会社の専用の箱に入れろと言われ10ドル払わされた。60ドルで買ったのに30ドルの箱代というのもなんだか納得いかない。東京はかなり暑い。そのせいなのか時差ボケで頭が回らないからなのか、コートを成田イクスプレスに置いてきてしまった。
夜の製図の授業の為にそのまま大学へ。大学でいろいろな先生と話すと我々のアルゼンチンの状況をよく御存じなのでびっくり。学生達のブログやツイッターのようである。10時ころまで製図のエスキスして皆で少し夕食をとって帰宅。アルゼンチンとの時差は12時間。今向こうはちょうど昼の12時。眠いようで眠くない。明日は朝から栃木の現場。さああ頑張ろう。
他者性を受けいれよ
ブエノスアイレス、エセイア空港を夜出て今ヒューストンの朝。トランジット中である。昨日はブエノスアイレスの日曜日。間違っても外人が来ないような地元のイタリアンレストランに招かれた。ここは日曜の昼に家族連れでやってきて3時間くらいかけて食事をするコミュニティレストラン。来れば知り合いにも会ってそこら中でハグ大会。築80年くらいの古ーい建物の壁にはタンゴスター、映画スター、サッカースター、の写や風刺画が貼られている。店の片隅で作る生パスタがゆっくりとサーブされる。その間ハウスワインを炭酸入りの水で1:1くらいに割って飲む。ハウスワインは美味しくないので水で割るのだと説明された。もちろんあまり酔わないようにするためもあるし、子供にも飲ませるからだそうだ。
今回のレクチャー、ワークショップ、展覧会はとても学ぶことが多かった。先ずはワークショップの課題が理解されづらかったこと。それは学生のみならず向こうの教員にとってもそうだったこと。そこには遠く離れた地球の裏側の地理的な差が必ずやあること。次に一緒に教えたり、話したり、展覧会をしたYOSHIとの間に了解し合える多くのこと(そこには同じ系譜の下で学んだ共同性がある)がある一方で差もあること。そんなことはあたりまえのことで行く前から分かっていることだが2週間2人で生活をする中でその重なることとそうでないことが正確に明確になるのだと思う。
月並みなことばではあるが、人間を成長させるのは他者性であり、他者性を受け取るためにはそれなりの努力がいると言うことを改めて感じた。
ワークショップファイナル
今日はワークショップ最終日。9チームのファイナルプレゼンテーションを11時くらいか2時まで聞く。2人で少し相談。いいと思うものはほぼ同じ。僕の選択基準は、αスペースのプログラムのリアリティとαスペースと住宅の相互関係性の建築的な面白さ。選んだ案は角地で1階にラーメン屋を作り上部はアーティストの工房とレジデンス。敷地の高低差を使ってスロープで屋上まで行けるようになっているもの。Congratulations!!
午後はサンテルモに行ってからMARQ( 建築博物館)へ。昨日は展示の撮影などをしている暇がなかったので全部の階を見て回る。この博物館ちょっと分かりづらい所にあるけれど空間が魅力的。
夜は塚本先生の発案で徹夜して頑張った学生の労をねぎらいステーキ三昧。
●ワークショップ講師陣
●エントランス1階市澤静山、書の展示
●2階は僕の部屋
●3階はアトリエワン
いよいよ展覧会オープニング
今日はYOSHIとMOMOYOと3人でジョギング1時間。朝は野菜だけ食べる。とにかくこっちの人たちと食事行くと野菜0なのです。
午前中ワークショップのエスキス。昨日よりだいぶいいねえ。吸収は早い。学生はオールラテンアメリカ+ヨーロッパなので英語が上手い人もいれば上手くない人もいる。
●今日のエスキスはあまりストレスない
1時にMARQ(建築博物館)に行き状況をみるが未だ床掃除中なので傍のカフェで昼食。そうしたら博物館から電話。日本大使があと15分で来て10分いて帰るとのこと。あれあれ困った。会場には配偶者もMOMOYOもいるからお任せしようという判断でゆっくり昼食をとる。会場に戻ると大使は待っていてくれて建築、書道の話をする。きさくな楽しい方だった。
●真っ赤な3本のバナーはアトリエワン、OFDA,市澤静山、坂牛静山の名前が表示されている
●大使を真ん中に博物館入口で
3時半から配偶者の書のレクチャー+書のデモンストレーション。こういうのは一番受けるよねえ。そしてレクチャー参加者に実際に書を書かせる書道クリニックを開催。来ているのは建築家、画家、彫刻家などのアーティストなので、初めての経験でもなかなかの味のある線を書く。
●凄い盛り上がりの書道クリニックでした
後1時間でオープニングパーティー。その間に新聞の取材を受けるのだが、どんどん時間が無くなって来て、取材中断でセッティング調整に戻る。多くの方が来られるなかで模型のわきで建築の説明。水戸のギャラリーがとても評判がいい。
9じ頃パーティーも終わりというころに、日本公使が来られお話をする。大使も気さくだが公使はもっと気さくな方で面白かった。外務省は国あるいは言葉によって配属グループができて、スペイン語系は国がおおらかだから大使館もそれに染まらざるを得ないようである。
10時ころから夕食。10人くらいでステーキを食べに行く。指三本の厚さのこれにしろとヘルナンが勧めた肉を皆オーダー。本当に肉とワインだけしか食べないところがいいよなあ。ああブエノスアイレスの夜も後一日だけ。
UPエスキス+SCAレクチャ
●パレルモ大学のエスキス
●SCAのレクチャー
2時に寝ても6時には目が覚める。YOSHIと40分ジョギング。9時半に大学。ワークショップ一日目のエスキス。工場を改装した天井の高いホールは昨晩レクチャーをしたところ。今日はアトリエに様変わり。かしこい使い方である。
ワークショップの課題は荒木町に住宅とそれに+αのスペースをくっつけろと言うもの。課題の主旨はうまく伝わっておらず、どのチームも形の話しに終始し、使い方の曖昧なヴォイドやプラザがαスペースと呼ばれているだけ。皆制作のプロセスが逆。形が行為を規定するのではなく、行為が形を規定するのである。殆どすべてのチームはやり直し。日本人学生はもう少し僕らの主旨を理解しているはずなのだがチーム構成がアルゼンチン3に日本1なのでまったく負けちゃっている。弱いなあ。
学生の準備不足でスタートが遅れ、あまりの思い違いにエスキスが延び、ランチは3時。寝不足と、ジョギングと空腹でもう死にそうだ、、、
4時ころMARQ(建築博物館)に行って準備状況を確認。書の展示はほぼ終わっているが建築はまだまだ。レクチャー映像が映るか確認。終わるともう5時。タクシーでアパートに戻りシャワーを浴びてから今晩のレクチャー会場SCA(アルゼンチン建築家協会)に向かう。
通訳してくれる喜納さんに簡単に今日話す内容を説明。日本大使館から来られた広報局長とご挨拶。今日は僕が最初に話しYOSHIは後半。昨晩の同時通訳と違って今晩は逐語訳なので時間はかかるが聴衆の理解はかなり高かったようである。
YOSHIの映像トラブルがあり終ったのは10時半。ワインパーティを終えて空腹を満たすために3年前も行った伝説のピザ屋へ。美味ーーーい。
パレルモ大学のワークショップそしてレクチャ
9時にパレルモ大学でワークショップのオリエンテーション。先ず塚本氏が東京の生成の過程を説明。ヴォイドメタボリズムの話は日本で見た時から面白かったが改めて説明を聞いて納得。荒木町は彼の理論で行けばアーバンヴィレッジであり、世代的には第一世代から第四世代まで様々ある。
午後はロベルトの事務所で昼をとる。なんともリッチなオフィスである。日本だったらこのスペースに20人は詰め込むだろうと言う空間に8人くらいが働いている。いいなああ。そこからUBAの模型博物館を見てからMARQへ。配偶者は既に書の展示の準備を始めている。予定していたより壁面が小さくて四苦八苦している。我々はと言うとまだパネルの印刷が終わってない。模型をいくつか出して置いて見る。そうしたら案の定天吊りプロジェクターの画像に影を作る。プロジェクションの位置を変えないといけない。
まだ床掃除が終わってないので模型を段ボールに閉まって。今日は終わり。
パレルモ大学に戻りレクチャーの準備を始める。同時通訳がついて聴衆はヘッドホンで聞くシステムである。昨日までは日本語通訳がつくと思っていたのだが、英語でね、と軽く言われてあれあれ、、、
7時から塚本氏がビヘイビオロジーの話し、8時から僕がフレームの話し。最後に流したリーテムのビデオが受けました。何人かが質問に来た。特に音楽は誰?という質問が数名。さすが大友良英!!!聴衆は300人だそうだ。凄い熱気でけっこうびっくり。10時半ころ終ってワインパーティーマルベックを堪能。余ったマルベックを二本もらい夜は塚本ルームであけました。
●ブエノスアイレス大学の製図板かっこいいい
●塚本レクチャー
●質問に答える
50年代の家に住む
今日はアルゼンチンの祝日、労働の日である。いくつかのカフェとキオスクを除いて街は殆どクローズドである。ちょうどアルゼンチン滞在も折り返し点。アパートでゆっくりしようなんて思うものの、貧乏根性丸出しで行けるところは行こうと南部のボカに足を延ばす。前回見られなかったスタジアムを拝む。例によってここもコンクリートがペンキで塗られている。ボカのチームカラー黄色と青。大統領執務建物をピンクに縫ってピンクハウスと呼ぶのだからもう驚かない。
午後はアパートで午睡。一週間たっても時差ぼけが解消できないのだから歳だ。夕食はパレルモ大学建築学科長のダニエル・シルベルファーデンのディナーに招かれる。1950年にできた築60年のコンドミニアム。レコレタ地区の中でも最も高級なエリア。250㎡3ベッドルームに巨大なキッチンと二つのサービスルーム。そこには勝手口がありサービス階段とサービスエレベーターに繋がる。木製の巨大な玄関ドアを開けると8畳くらいの前室がありそこからテラスのついたリビングと低いソファの置かれたラウンジに繋がる。学科長なのだから特別な人思いきや、こっそり友人に「彼はリッチ?」と聞くと、「ここは借りものだからそうでもない」なんていう答えが帰って来る。
それにしてもいろいろなことに驚かされる。
① 60年前にこれだけのデザインがなされていること。日本の50年代にはもちろんこんなもののかけらもない。
② 例えば、天井高3.6メートル、大きな部屋間の間仕切りドアは全て壁に引き込まれ、キッチンの吊り戸がアールデコ調機能主義、アパートなのに勝手口がありサービスエレベーター設置、各部位の美しい素材、etc.
③ 60年前のデザインを大事に残そうとする精神。日本にはない。
さてパーティーのしめは僕らの為に周囲の散歩をしながら建築レクチャー。周囲をワンブロック歩くだけで20世紀の重要な建物がいろいろと出てくる。帰りはアルゼンチン製フィアットで送ってもらう。
スペイン語文化圏の建築に浸る
今回アルゼンチンに来たのは展覧会、講演会、ワークショップをするためです。全体のタイトルはantipodas12(地球の裏側2012)と言います。2009年にブエノスアイレスで行われたantipodas日本建築展に始まり、翌2010年に信州大学でantipodas10(展覧会、講演会、シンポジウム、ワークショップ)を開きました。そこで今年はブエノスアイレスで同様のことをしようという企画です。
過去2回のプロジェクトを発展させようと今回は3つの点が変りました。
① 開催国のみならず参加国(今回は日本)の学生も多く参加
展示模型を作る学生に「せっかくなら見に来る?」程度の気持ちで聞いてみたのがきっかけで結局7人の参加になりました。
② 展覧会は建築家として2チームに加え書が参加
どうせやるなら坂牛ともう一人くらい建築家がいてもいいなあ、という話でたまさかヴェネチアビエンナーレのアルゼンチン館をデザインしたロベルトが日本館のアトリエワンを知っていたことがきっかけでした。加えて建築以外に写真か書を入れたいと言う先方の要望から、書家である配偶者が書の展示をコーディネートすることとなりました。
③ 模型主体の展示
私と塚本氏との話し合いの中で2次元じゃ書に勝てないよなという認識から頑張って模型を作ることとしました。
そうやってスケジュールを決めたのが去年の秋。しかし後で分かったことですが、実はアルゼンチンもこの時期は4連休。そこで連休後を本格的な活動の開始とし、それまでは準備(会場づくりや学生への軽いオリエン)期間としました。そんなわけで今日明日はオフな日。市内建築観光にでかけました。
アルゼンチン独立200年記念館(これがなかなか素敵)。設計者と記念撮影。
近代美術館(設計はエミリオ・アンバース。彼がアルゼンチン出身だったとは知らなかった)
その他いろいろ観察して疲れたところでカフェへ。すかさずメールチェックです。
すると突如Iphoneが鳴り出しました。日本からかかってくることさえないのにいきなりラテン系の英語が聞こえてきます。どうも相手はグアテマラのUNIS(Universidad de Ismo)の建築学科長。夏に開く年に一度の建築デザイン会議に招待したいとのこと。インターナショナルアーキテクトとしてもう一人ラファエル・モネオの娘が呼ばれ、10名程度のセントラルアメリカのアーキテクトが参加するとのことです。周りの騒音と彼女の早口で半分しか聞き取れないのですが、日程は調整すればなんとかなりそうなのでひとまず了承しました。こうしてどっぷりとスペイン語文化圏の建築に沈潜することがここ10年くらいの僕の興味です。