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Oct 2012

高階秀爾、岡野俊一郎、辻井喬、ご苦労様

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by 卓 坂牛

文化勲章、文化功労章の授章など実にくだらんことだと思いつつ、夕刊の一面に載っているのでいやでも目に入ってしまう。気になる名前が三つ。高階秀爾。母校の先輩に拍手。この手の賞は芸術分野なら創作者に与えるのが常なのだが、受容者(批評者)に与えられたのは与える方も少しは利口になった証拠である。次は岡野俊一郎。まあこれはサッカー関係者なら皆知っている名前である。高々サッカー屋なのに文化に貢献した?国際的なスポーツは有利である。そして最後は辻井喬。堤にはくれないだろうが、辻井にはくれる。まあセゾン文化にお世話になった私としてはやはり拍手。
いやはや多様な人選と思ったのだが、3人とも東大である。所詮文科省の人選なんて官僚的か?

必読書『抽象と感情移入』

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by 卓 坂牛


大学院講義の今日のテーマはフォルム。フォルムを近代的な視点で用いたのはフォルマリズム批評である。その批評家の重要な一人はヴェルフリン。しかしヴェルフリンのフォルマリズムでは様式の変遷を説明しきれない。そこに登場するのが芸術意欲なる概念で説明づけたリーグル。形式的、抽象的な様式史ではすくいきれない精神史に注目することでヴェルフリンを補完した。そしてその二つを合体したのがヴォリンゲルである。彼は様々な芸術衝動の基本を感情移入作用と、抽象作用の二つの方向性にあるとすることで、様式と精神の双方を説明する原理とした。
『抽象と感情移入』岩波文庫で絶版のようだが大学院生ならぜひどこかで見つけて読んでほしい本である。

太宰治のいたずら

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by 卓 坂牛


だいぶ前に数人の友人と酒を飲んだ時に、そのうちの一人が井伏鱒二のKOIがいいと言っていた。KOIってロマンス?と聞くとカープと言われた。酔っていたせいもあってその話はすぐ次の話題に切り替わった。なんとなくそういう言葉は気になるもので帰宅後すぐにアマゾンで調べるのだが、鯉というタイトルの小説はなく還暦の鯉という短編集があったので数百円で中古を買った。しばらく開けてもいなかったが、今日寝転がって読んでいた。太宰治が締切間際の井伏を手伝った話が愉快だ。太宰は井伏の口述筆記をし、その時の感想を井伏全集の後記に書いた。それは一種の褒め殺しだった。しかも口述筆記の中には折口の文章の流用があり、太宰はそれを知っていながらその文章をとりあげて、「天才を実感して戦慄した」と書いたそうだ。なんとも皮肉っぽい。しかしそれは当事者の二人にしかわからないというところが太宰の何とも言えぬ遊び心だし、それをしゃべってしまう井伏もあけっぴろげでいい。

ドイツの初期モダニズム

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by 卓 坂牛


第一回分離派100年研究会というのが本郷で行われた
東京造形大学の長谷川章先生、日本大学の田所辰之助先生に講演いただいた。長谷川先生の青島のドイツ建築はとても刺激的。田所先生の、ミースもグロピウスも登場しないドイツモダニズム建築の話も興味深かった。
ドイツ20世紀の世紀の変わり目は改革建築、表現主義、アーツアンドクラフツ的ムテジウスデザイン、幾何学的ホワイトキューブという風にそのスタイルは変化しているが、底流を流れていたのは「生活の質の向上、光を求めて郊外へ向かう、緑に埋もれて暮らす」という思想だった。今でも建築史には残らない、緑に埋もれた郊外のキューブで豊かな生活が育まれているそうだ。それがギーディオン、コルビュジエ等によってヒロイックでモニュメンタルで形式主義的で個人主義的なオブジェに変形された。我々は英雄的建築家による特権的な建築がモダニズムを作ったと教わってきたために、ドイツ初期のこんな思想を語る言葉をもっていないのである。

今時のコンクリーt

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by 卓 坂牛


12時から西荻の現場打ち合わせ。だいぶ型枠がばれてきたので形が見えてきた。生まれて初めて全面的な外断熱設計をしたのでこの写真のまま内部は仕上がる予定。ただしこの上に塗装を行う。これは昔から培ってきたEPのスポンジたたき仕上げという方法で、コンクリートのステイン仕上げのようなものである。この場所は黒くステイン仕上げをする。
現在翻訳しているコンクリートの本によると、今時の現代建築においてコンクリート打ち放しを外装に使う人はいない。使うとすれば内部である。その理由の一つは、熱容量の大きいコンクリートは外断熱し、内部コンクリートを晒しで熱を集めてこそ効果的だからだという。期せずして今時の建物になっていることに気付く。
午後大学で日本のモダニズム研究会。今日は先日出した科研メンバー全員集合。概念としてのモダニズムを追いかけるうえで今日は戦前戦後の評論家、批評家と呼ばれる人々の相関図を作る。知識が豊富な研究者の集まりなので僕の知らない知識がわき出てきてとても楽しい。こういうディスカッションは刺激的でいいな。
4時から講義。学生が漸減し20人くらいになった。とてもいい。もっと小さい部屋で議論しながら進めたい。今日のテーマは主体性と他者性。6時から3年生の製図。金曜日は長い。

昔の四ツ谷三丁目

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by 卓 坂牛


今朝事務所に鈴新(荒木町のとんかつ屋さん)のマスターが昔の荒木町の芸者さんの写真やスケッチを届けてくれた。芸者さんの写真も奇麗で楽しいのだが、一枚のスケッチに目がとまる。四谷三丁目交差点のスケッチである。何時頃の絵なのかはにわかには分からないのだが、地下鉄の駅への階段が手前にあり、道路の向こう側にも見える。今は駅の階段には屋根がかかっている道路の向こう側の角は消防博物館である。そして新宿通りには都電が走っている。都電は70年ころまでは走っていたらしいが、、、

世界建築史

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by 卓 坂牛


パミラ・カイル・クロスリー(Crossley, P)佐藤彰一訳『グローバル・ヒストリーとは何か』岩波書店(2008)2012は世界史(日本史とかアジア史とかではなく)の叙述の方法論を4つに分類している。それらは
発散
収斂
伝染
システム
である。最初の二つは分かりやすい。発散とは歴史の起源のようなものがありそれが世界中に伝わっていくというナラティブである。一方収斂とは世界同時多発的に同じようなことが起こる。つまり世界があるルールの下に普遍的な動きに収束してくると言うナラティブである。
さて3つ目は少し水準の違う言葉のように見えるのだが、伝染とは伝染病のことであり、疾病が世界を変えて行くというナラティブである。4つ目のシステムとは分かりやすく言えばマルクスやダーウィンに始まり現在のウォーラー・スティンの世界システム論まで繋がる。
世界建築史を考えた場合、古代は発散し中世は収斂、伝染はないのだが、確かに現代はシステムと考えるのが分かりやすいかもしれない。そしてそのシステムの軸となるのは情報性であろうと思っている。つまり世界建築を動かしているのは技術とか風土とかというよりは建築的コモンセンスであり、それは文化圏ごとに異なる。しかしそれをこじ開けてつなぎ合わせているのがメディアである。しかしそのメディアの中を流れる内容物にはいくつかのタイプがあるように思われる、とても乾いたものと湿ったものその中間など。

タイミング悪すぎ

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by 卓 坂牛

ある方とある話をする予定が電話が来ないので今日はかけてこないのかと思いきや夕方遅く出先にかかってきた。大学に戻ろうと思って地下鉄の駅目指して走り始めたところである。また後でと言うわけにもいかず、話始めるのだが、雨が結構強い。持っていた傘は傘を持っていないスタッフに渡し事務所に戻りなさいと言ってしまった後である。仕方なく近くのペンシルビルの軒先に入るのだが、雨が横なぐりで濡れてしまう。ビルの中まで入ると不法侵入のようでビルの人にじろじろ見られる。仕方なく雨の中に飛び出し、ラーメン屋の軒先で雨をしのぐ。しかし出入りの人が多くうるさい。雨がやんできたので道を歩きながら話す。しかし歩いているとだんだん周囲がうるさくなってくるのでまた横道に入る。するとまた雨が強くなってきてまた軒先に、こんなことを繰り返しながら30分。けっこうびしょびしょ。携帯が壊れそう。
タイミング悪い時って本当になんだかこんなもんである。

更にここからが人生

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by 卓 坂牛

高校の同級生がメールをくれた。同学年でもぴか一の天才肌。がり勉して勉強できるやつはまあ沢山いたけれど、彼は授業以外は勉強しない珍しい奴。物理を学びたくて京都に行こうか東京か迷ったあげく遠くには行かず、その後ニュヨークで研究し、日本に戻り筑波の理論物理のエースとして教授をしていた。しかし来年の春から京大に行くと言うのがメールの内容。去年クラス会で移りたいと言っていたので念願叶ったりで良かったねという気持ちである。いや彼のような人間はここが正念場で本当にノーベル賞の可能性ありの人間なだけに、今こそ最高の環境で研究しなければいけない。もしかすると外国に行くべきなのかもしれない。
50過ぎて東大からオックスフォードに行った苅谷先生とか、今回の同級生とか、人生まだまだこれからだと再確認。僕の構想では人生60からなのだがどうもそれでは遅いかもしれない。やはりここからが楽しい時期なはずである。人間は常に可能性を求めて向上心を持って生きねばならない。さあいろいろやることがある。

SALHAUSのリノベーション

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by 卓 坂牛


上越トークインは昼で終了。昼食をとってから渡辺真理さん運転の車で越後湯沢を目指す。途中絵本と木の実の美術館に寄る。廃校小学校にアートインスタレーションが所狭しと並んでいる。カフェもある。お値段は定食1000円としっかりとる。
越後湯沢から1時間半。東京から麻布へ。SALHAUS設計の集合住宅リノベーションを見る。信大時代の田中君が担当した最初の物件。5階建てで道路側と裏側に各階2戸。裏側の住戸は窓側にガラス張りの水回りがあった。入ったすぐの場所が広々となる。とてもいいな。