大橋晃朗の家具
私の知り合いに大量の爬虫類や亀をペットにしている人がいる。彼の家では亀のうち数匹が巨大化し今では座布団くらいの大きさになりとても家の中には置けなくなり庭に放し飼いにしているそうである。その上運動不足にならないように彼の母親は暇を見つけてはこの亀にリードをつけて散歩するそうである。場所は南青山。青学の裏。さすがに亀にリードをつけて街を散歩する人は世の中にそうたくさんはいない。彼女がその亀を連れて街を歩くと皆が振り返る。その上その亀は呼びかけると振り向くそうでこれにはすれ違う人も目を疑うようである。さてこの亀、もちろん散歩中は歩くとしても家にいるときは石のようにじっとしているそうである。このほとんど動かない石はある一時動くということでかろうじて生き物としてのアイデンティティを持っているのだがほとんどそれは庭石。室内においたら家具のようなものである。しかしこの亀はこの家族に無言の愛嬌を振りまき、和みを与えているのである。
長い前置きになったが大橋晃朗の家具の本を読んでいて僕はこの亀の話を思い出したのである。人間と社会の中での家具の概念を追求した初期のシリーズからもっと自由に人間の身振りを表現した大橋の家具は世の中の類型化された家具とは根本的に性質を異にするものである。ではそれが何なのか?しばし考えていたらこの知り合いの亀のことを思い出してしまったのである。この亀は用をなさない石のようなものなのかもしれない。しかし石といえども何がしかの生き物の根源的な属性を愛らしくそして豊かに喚起してくれるものなのである。きっと大橋の家具にもそうした豊かな喚起力があるのではなかろうかと写真を見ながら想像するのである。
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