ペギー・グッゲンハイム美術館
1985年のヴェニスビエンナーレにUCLAのチャールズ・ムーアスタジオは建築プロジェクトを出品した。僕もそのメンバーの一人だった。プロジェクトはヴェネツィアのペギー・グッゲンハイム美術館の改修増築であった。どうしてそのテーマを選んだのかは覚えていない。見たことも無いその建物を写真と図面を頼りに模型で再現した。ヴェニスの路地のような細いアプローチと南向きの庭。そのシークエンスがムーアの気にするところであった。既存の建物は1階建てだが、もともとパラッツオとして建てられようとしたものであり、1階というのは未完というのが我々の解釈だった。しかし3層は作りすぎであり中途半端だが2階建てにするというのが我々の回答だった。
その建物をついに22年後に見ることになった。すばらしい美術館である。このアプローチと中庭のスケールとその彫刻の並び方はムーアの力説が本当に正しいことがよく分かる。今まで訪れた世界の美術館の中でも1~2を争うできのよさである。中庭にはヘンリームーアからカプーアまで、モダンから現代までが適度に並んでいる。本当に適度に並んでいる。常設展もピカソ、キリコ、フランシスまで。そして企画展はヨーゼフ・ボイスとマシュー・バーニーである。その全体の量といい間隔といい空間の変化といい。すべてが適度なのである。このバランスは例えば東京の国立新美術館のような展示場型美術館の対極を行く。
ボートに乗って島の周りを一周した。島の裏側に来ると所謂ヴェニスの風景は終り、コンテナと工場の煙突が林立している。ディズニーシーと東京湾が交互に見えるようなものである。
今年はベニスと、ドキュメンタなどが一度に行われる、まるで惑星順列のような、すごい年ですね。知り合いの美術関係者でベネチアに行った人の話では、ビエンナーレ外のコラボ・イベントがすごかったとのこと。いずれにしても、うらやましい。