ダーヴィニズムエレメント
朝起きたら雨は降っていないし風もたいしたことはない。台風はそれたのだろうかと思ったがニュースをつけるとほうぼうで電車が止まっている。加えて明け方近くにはとんでもない雨が降っていたようだ。そのせいもあって午前中に予定していた金箱さんの打ち合わせは夕方に。空いた時間に塚本さんから送られてきた『空間の響き、響きの空間』INAX出版2009をぺらぺらめくる。コスタリカでの壁のない外部とつうつうの吹きさらしの小屋のようなホテルの体験を描いている。ここではもののあり方(ホテルの物理的環境)がやり方(ホテルの運営の精神)によって支えられており、こうした関係性は近代的思考からは抜け落ちていた部分であると指摘する。そしてそこにこそ空間の響きがあるはずだというのが彼らの主張である。なるほどわからなくもない。いやよく分かる。しかし問題はそこからである。なんて考えていたら金箱さんが来られた。RC3階建の壁構造の壁位置を合わせる作業はパズルのようである。そもそも壁構造の経験は角窓しかない。あのときはほとんど平屋だから壁の位置は自由だったが今回は千㎡を超える3階だてだから上下階の壁の微妙な調整がデザイン以前に必要となる。
打ち合わせを終えて夜のアサマに乗る。ローティの参考書を読み終えたので再び『連帯と自由の哲学』を読む。その中にプラグマティストを自称するローティなりのプラグマテイズムの定義がある。曰く「プラグマティズムの核心は真なる信念を『事物の本性』の表象と見なすのではなく、うまくことをなさしめる行為規則とみなそうとするところにある」。つまり物事の正しさはその物事の本質にあるのではなくその物事がうまく進むためのふるまい方のうちにあると言っている。これは昼間読んでいた塚本さんたちの考え方にラップする。つまり「あり方」と「本質」、「やり方」と「行為規則」という概念がかぶると言うことなのだが、しかし問題は行為規則にしても、やり方にしてもそれらは常に試行錯誤の上でダーヴィニズム的に発展していくエレメントである。そうした変動要素を建築はどう捕まえられるかというところがポイントだ。僕にとっても建築において最も興味ある部分である。
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