初めて聞く母のこと
病院にいると朝早く目が覚める。というか寝ているのか起きているのかよく分からないうちに朝となる。うつろな意識のお袋に「おはよう」というと「うー」と唸る。担当医が来て病状の説明をしてくれた。相変わらず危篤状況は変わらないということである。しかし医者と言うのもきっと安全率200%くらいで話すのだろうと高をくくり、可能性はあると勝手に確信する。
早稲田大学の建築学科に通う甥っ子が模型材料を世界堂の袋にどっさり持って部屋に入ってきた。僕は入れ替わりで帰宅する。シャワーを浴びて昼食をとって事務所に行き進捗状況を聞いてから大学へ。昨日の模型を撮影しておくように指示してから会議へ。明後日の院試の内容を確認。終わって発達障害の講習会。現代の自閉症であるLDとアスペルガーの話。信大でも全く同じ講習会があった。
夕方病院へ。オフクロが目を開けずにひたすら語っていた。
母:小さい、、、頃、、は高円寺の、、出窓の、、ある、瀟洒な、、、文化住宅に住んで、、いた
私:ええええ?青森にいたんじゃないの????
母:うー、、高円寺、、、、である
私:おじいちゃんは何してた?(若くして死んだので会ったことが無い)
母:おじい、、、ちゃんは、、、教師、、、、ったがそ、、、れは仮、、、の姿で本当は小説家を目指していた
私:小説家???????
母:その、、、、、、、小説、、、は早稲、、、田文庫、、、、、に入っている
母:喉が、、、、からからで、、、、アクエリアス、、、、、を飲みたい(誤飲して肺炎を起こす可能性があるので飲ませられないのだが)
私:ダメだってずっと言っているでしょう!!
母:喉の奥が乾燥して、、、喉が要求しているのだ、、、せとやませんせいは、、、、それが分かっていない、、、、、、、、私の所有物は、、、、、は、、、、ひそやかに、、、、、存在、、、、し、、、、ては、、、いない、、、、、
目をつぶりとり憑かれたように、酸素マスクでからからになった声帯をがらがらに震わせて延々としゃべっている。こちらが反応しようとしまいとである。恐ろしいことに母の若いころの話など今の今まで全く知らなかった。東京に住んでいたなんて50年間聞いたことも無かった。もちろん子供が親のことをすべて知っている必然など何処にもないのではあるが、、、、
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