ベンヤミンの翻訳論に学ぶ
仲正昌樹『ヴァルター・ベンヤミン』作品社2011の中に「翻訳者の課題」というテキストが解題されている。昨今翻訳をすることが多いので読んでみた。そもそも文学とはどんなものかというところから始まるのだが、それは人々の生活の連関(時間的な生活習慣の継承など)の表出なのである。そしてその表出の目的地は個々の作家の意図を超え、超越的に規定された「生の本質」あるいは「生の意義」に向いていると言う。
さてでは翻訳とはどんな作業か?それはある生活連関から異国の生活連関への移動なのである。翻訳は、よって、単なる単語の置き換えにとどまる作業ではなく、新たな場における「生の本質・意義」へ向けた創造なのである。さらに、後にベンヤミンは生活連関の表出は様々な場所で起こることを認めている。もちろんそこには建築も含まれる。上記翻訳を建築で考えるなら、さしずめ竣工時の生活連関がもはや薄れた後年におけるリニューアルのようなものである。それをベンヤミンに引き寄せて考えるなら、リニューアルすべき既存の建築にはその昔の「生の本質・意義」があってしかるべきであり、そして新たな操作にはこの時代の「生の本質・意義」を刻んだ創造でなければならず、このせめぎ合いこそが創造的翻訳(リニューアル)の成立条件なのであろう。
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