安部公房の椅子
その昔、自作の建物でアートイベントをした時、近藤一弥さんにインスタレーションをお願いした。安倍公房の著作装丁などを手掛けてきた近藤さんの作品は安倍公房の部屋。建物の中に入れ子でもう一つ部屋をインストールした。そんな近藤さんから解体近い安倍公房自邸の記録をお願いされた。今後何らかの形で再現する機会を作りたいとのこと。研究室の学生10人を引き連れ安倍邸にやってきた。名だたる文人、芸術家が集まった応接間、趣味の写真を現像した暗室、伴侶真知さんのアトリエ、そして書斎。家を見るとその人となりが分かるとはまさにこんなことなのだろうと感じた。
書斎には脚の短い、茶色のビロードでくるまれた椅子が作り付けの机の脇に置かれていた。彼はその椅子を机と並行に置き、膝の上に画板を置いてその上で執筆していた。決してその椅子が机の方を向いていることは無かったそうである。
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