渡辺裕『聴衆の誕生』再読
渡辺裕『聴衆の誕生』春秋社1989は初版の時にちょうど私が東大の美学科で授業を持っていたので渡辺先生本人からいただいた。頂いた時にさらりと読んでジェンクスは建築家ではなく歴史家ですよと説明したのを覚えている。あれから25年もたった。再読したく本棚を探すのだが見つからない。仕方なく文庫本(中公文庫)を買ってじっくりと読んだ。音楽社会学というのだろうか?音楽の社会的受容の問題をこれほどわかりやすく書いた本は少ないのではないかと思う。特にチャールズジェンクスの引用部分が建築をやっている人間にはわかり易い。ジェンクスは『ポストモダニズムの建築言語』においてモダニズム建築を批判するがその時モダニズムの建築家はモダニズム建築を理解する「神話的近代人」という高級な人種を想定していたのだと言う。一方渡辺は音楽を集中してき聴きとる「近代的聴衆」なるものが登場してきたのだとして、音楽や建築(もしかすると、絵画や彫刻も)を受容する新しい人種が近代において誕生してきたことに注目しているのである。しかしそうした近代人の受容とは文化の公式的態度に過ぎず、実は近代以前にそうであり、そしてポストモダニズム期にそうなったように、音楽は集中的に聞いて理解し、解釈するようなテキストという面のみならず、軽やかにその快さを受け取るような側面も持ち合わせている両義的なものであることを示した。もちろんこのことは音楽のみならず、およそ全ての文化を観る視線であることは言うまでもない。
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