観光客の哲学
中学校の地理の授業で覚えているのはトマス・クックの時刻表を渡されてヨーロッパ1ヶ月間旅行計画を作れというものである。この計画を練りながら自然とヨーロッパの都市の位置関係や名所旧跡自然の特徴を習得した。ついでに様々な都市へ行ってみたいという興味と好奇心が湧いてきた。もちろんその後留学することになった原因がこの授業だとは思わないけれど、目が国外に向くきっかけを作ってくれたことは確かである。
突如トマス・クックの数十年前の話を思い出したのは昨今読んでいた東浩紀の『観光客の哲学』株式会社ゲンロン2017の冒頭にトマス・クックが登場したからである。本書はこれからのグローバリズムとナショナリズムが併存し、ナショナルな政治とグローバルな経済が併存する時代にそれらをまたいで世界市民たらんとするためにはネーションに引きこもる国民となってはだめで世界中をノマドのごとく彷徨う旅人でもだめで、ネーションと世界を往来する観光客の哲学を保持せよと主張する本である。二項対立の片方に触れることなく、中庸に理があると考える点でこの話は原理的に賛成である。加えて年に数回海外でワークショップなど行い観光客を実践している身としては見事に自分を援護してくれる理論でもある。既述の通り本書でトマス・クックは冒頭ツーリズムの創始者として登場する。中学の時そんな説明も受けていたのだろうがすっかり忘れていた。当時の地理の教師中川先生が東浩紀の如き哲学的洞察のもとツーリズムを教材にしたとは思えぬが、中学生の目を世界に向かせた功績は大きい。同級生の多くが世界に羽ばたいたのにこんな授業も少しは影響していたのだろうと思う。
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