ゆっくりと近くで寛容に
『資本主義の終焉と歴史の危機』を著した水野和夫の新著『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』集英社新書2017を読む。著者の主張の基本には持続する低金利の読み方がある。そこから展開する論理は資本主義はすでに拡大する空間を失ったから成長していないというものである。つまり資本主義は終焉したということである。そしてそれ故旧態依然とした経済成長を促す政策(アベノミクス)は無意味というのが結論である。僕は経済学者ではないのでその論理が正しいのかどうかは正確にはよく分からない。しかしもしアベノミクスが正しいのであれば社会はもっと改善されてしかるべきであり、そうならないのはアベノミクスがおかしいと思うしかないし、実際建築の世界を見てみるなら、経済成長を期待して生きている設計者はゼネコンと組織事務所にしかいない。アトリエ事務所の設計者達はこれまでとは違う世界であるいはこれまでとは違う仕事の仕方を模索している。資本主義が「早く遠くへ合理的に」をめざしていたとするなら、「ゆっくりと近くで寛容に」と著者は言う。そしてそういう設計態度と生き方をしている若い建築家は増えている。
先日ラファエル・モネオの家族が来日した時に娘のベレンが言っていたが、モネオ事務所はラファエルができる範囲のことしかもうやらない。ゆっくりと静かに少しだけなのだそうだ。槇文彦が静かに穏やかに共感出来る建築をと言っていたのもこういう発想につながる。そういう風に世界が変わり、日本が変わるためには、まず株式会社で資本が自己増殖するようなシステムを変えないとダメだと思う。株主の顔色を伺い資本を増殖させることを最優先に生きることを止めないといけない。その意味では持ち株会社である日建などは新しい設計業態を示していけるはずである。新たな建築をつくるのではなく、新たな働き方、組織のあり方を見せる会社になってほしいものである。
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