味覚
甲府プロジェクトのオーナーはとにかく食にこだわる人である。その彼が坂牛は舌音痴だと言うのでそれは正しいと申し上げた。建築関係の人はだいたいそうだ、いや広く美術関係者皆そうだと言う。そうでもないと思うが彼の顔の広さからするとその蓋然性は高い。しかし僕が舌音痴なのは建築とは関係ない。躾のせいである。なんでも出されたものは美味しいと言って残さず食べることを申し渡されていたからこうなった。だから配偶者の作るものは、いや誰が作っても、研究室で宴会やって出てくるものでも、なんでも美味しいと条件反射するようにプログラミングされているのである。おそらく僕くらいの歳の人は皆そうではないだろうか。しかしもう人生も後半だからそろそろリセットしてもいいのだろう。そもそも味覚が壊れていたらリセットする意味はないのだが。