倉方レビュー
自宅に戻って、坂牛卓さんにお贈りいただいた新刊『教養としての建築入門』(中公新書)を読了。
一言で表せば「これが建築という世界の最良の中心です」と、多くの方に伝えたくなる一冊でした。
「入門」というタイトルにもかかわらず、内容は、かなり多くの事柄を駆け抜けています。
坂牛さんらが翻訳されたエイドリアン・フォーティーの複雑な建築論が的確に要約されて姿を見せたかと思えば、料理やアートと建築の接点に迫り、私も好きな「風の塔」や「日比谷ダイビル」といった日建設計時代の担当作を含む自作が現れるといった具合に。
ここに無縁なのは、難渋ぶって他領域に首を突っ込んだり、甘くベトついて自分を語ったりといった態度です。
端正な文体と整理された論理で、多方面の事柄をつなげています。あまりに上手いので、まるで人為ではなく、自然であるかのようです。しかし、通常では出会わないような意外な接続であることは、少し考えれば分かるはず。
ストレスがなく、単純ではない動線が設計されています。一度、通過して終わるものではありません。読者は何度も、本の中を駆け抜けたくなるでしょう。
利用者の成長に応じて、別の姿を見せていく。そんなつくりの本です。優れた設計がそうであるように。
書かれている内容はもちろんですが、クールで豊かなこのスタンスこそ、建築という世界の最良の部分だと実感しました。
それが新書という手に取りやすい形で世に出たことの意味は大きい。
多くの人がこの本から、建築の世界に正しく入ってもらいたいと思うのです。