似内さんのレビュー
FB友達の似内志朗さんが拙著に対してこんなコメントをお書きになっていました。ありがとうございます。
備忘録。最近読んだ本。坂牛卓「教養としての建築入門 見方・作り方・活かし方」新書新刊。Facebookで坂牛氏の新著が出たというのでAmazonで買って読んでみたが、想定外に素晴らしい一冊だった。「入門」とあるだけに言葉は平易だが、著者独自の「建築」に対する切り口は新鮮。あとがきにも触れているように、こうした建築に対する包括的な本は各専門分野から共著で書かれることが多いが、敢えてひとりで纏めたという。「一人でまとめるなら専門外の部分は通説にとどまるもの、視線の一貫性が明瞭になる。それによって終章で、建築を作るという行為の弁証法的な仕組みを三部の構成からあぶり出すという大きな構図をつくることができた」とあるように、建築に纏わる様々な事柄を咀嚼し身体化された著者の言葉は、ひとつの建築の世界観として読む者に伝わる。射程は(入門書)を超えて)広くかつ深い。少しゆっくり目に読んだが、豊かな世界観を共有させていただいた贅沢な時間だった。
本書は建築に対する様々な思考をめぐらせ、自分の哲学をつくってきた者にしか書けない。建築を学ぶ学生には建築を理解する入口として、建築を専門としていない「教養書」として読む人たちに対しては、建築の見方や理解の一助となり、建築へのリテラシーの裾野を広げていく。これが個人や企業の専有物(資産)あるいは資本主義社会の商品としてばかりではない建築の望ましい在り方へ、国民のリテラシー向上を通し徐々にでも実現させていく、そうした期待と意図が込められた書と感じた。必読と思う。
(下記、終章から一部引用)「建築の商品化の動きは建築の外部(経済)から方向づけられるものであり、本書ではそのような作用を建築の他律性と呼んだ。よってこの他律性=商品化を回避する方法は、建築の自律性を高めることである。おそらく二つの方法がある。一つは建築を立たせている資本主義の仕組みに介入を試みることである。もう一つは、現状の資本主義を前提としたうえで、経済という下部構造に対して自律的な建築を構想してみることだ。すなわち二つの方法を総合すれば、建築と資本をある程度離して考えることである。つまり、建築の公共性を考慮して、資本を蓄積する道具として考えないようにすることだ。そのとき政治と経済には強い倫理観が求められる。その倫理観は、建築を見る人びとの建築リテラシーが高まるなかで、 醸造されてくるのではないだろうか。本書はそのリテラシーの基礎を提供するものである」