ワードローブを小さくしよう
ジェニファー・L・スコット神崎朗子訳『フランス人は10着しか服を持たない』だいわ文庫2017を読んでデンマークで教え子に言われたこと思い出した。彼は日本で履いていたオニツカタイガーの靴をデンマークでもずっと履いていたし、着ている服も毎日同じだった。「こっちの人は服は滅多に買わないけれど買うならいいものを買って毎日着ていますよ」と言う。王立アカデミーで教えているレネも同じ服。日本に来ても同じ服だった。
この本の話はフランスだけれどヨーロッパでは割とみなこういう感覚で生きているのかもしれない。そもそもだからこういう本を書いた著者はヨーロッパ人ではなくて消費大国アメリカの人なのである。パリで暮らして驚いたわけである。この本が日本でもベストセラーになるというのはまさに日本もアメリカ同様の消費大国だからなのである。かくいう私もそんな消費大国の消費人間でありこの本を読み驚いている。
先日大谷のお家を見た後で感想をメールしたらそのメールの返信に我が家に来ると次の日から自分の家の押入れのものを捨て出す人がたくさんいるんですよと書いてあった。彼のファミリーはまさにワードローブに10着しか服のない家だった。10は無理にしても、必要なものを必要なだけ着て、食べて、暮らすそんな生活を目指したい。そしてやりたいこともやりたくないことも楽しくやる工夫をして肩肘張らず静かに着実に生きていきたい。と思わせてくれる嬉しい本でした。
街中の小さなオフィス
jog arch 16 東京の特徴的都市構造は幹線道路沿いを商業地域として容積率を上げてその後背地を住居系にして容積率を下げスモールスケールの空間を担保している。そんなエリアに小さいけれど個性的なオフィスやお店があるのが青山あたりの楽しさである。永山祐子さんの湾曲したファサードは9年経っても不思議と汚れていない。北川原さんの395は30年経ってすっかり街に溶け込んでいる。中村さんのjewelry boxは246沿いだが何故かスモール。ガラスが波打っている。



日建の都市開発
先日日建の大松さんとすれ違い、「本読んだ?」というから「何を?」と聞くと「日建の都市開発の本作ったから送るよ」と言われ、さきほど届いた。日建の都市開発図鑑である。まあ大体知っているもの。全体的に見やすくてわかりやすいのだが、もう少し玄人向けにつくったらどうだろうか所詮専門誌なんだから。苦言を呈するなら巻頭の文章があまりにプア。これ読んで少しげんなりする。歴史的説明のこれからの展開の説明がまたあまりにお粗末。これからこそがこの本の主眼ではないのか?都市が数十年後に縮小へ向かう準備が語られなければ片手落ちでしょう。これまでの右肩上がりの時代を懐かしんでも仕方あるまい。
中庸
こういうタイトルの著書は常に反論を受けるが成長率が0の社会は決して衰退する社会ではないと先ず前置きして、市場経済というものがおよそ人間の社会的な存在を無視して数字的に成長することのみを是として作り上げられてきたかを事細かに説明し、そしてもはやそうした成長が人間の社会性を犠牲にしていることを明らかにしていく。
しかしここからがこの著者のユニークなところだが、そうした進歩史観的で成長信仰を否定はしない。人間にはそうした外延的拡張のモメントがある一方で内向的凝縮のモメントもあることを説く。そしてそうした外と内への力は3種類あるという。
- 人間の社会性をめぐるもの
外延的拡張モメント—グローバリズム、情報ネットワーク
内向的凝縮モメント—家族主義、親密圏への引きこもり
- 人間の生死をめぐるもの
外延的拡張モメント—延命治療や生命科学を使った生の延長
内向的凝縮モメント—死の受容や諦念、生の瞬間的充実
- 達成をめぐるもの
外延的拡張モメント—理性主義、科学主義
内向的凝縮モメント—宗教的内観、哲学的観照
そしてこれら3種類に二つのモメントの中庸をさぐるのがこれからの世界ではないかという。すでに外延的拡張で出帆した地球が急にこれを止めることは難しいだろう。しかしそれに対して内向的凝縮モメントが働かし「中間接近」は可能であろうと述べる。
私はつくづく共感する。外向きも内向きもそれぞれ認め、多様性を維持する寛容なる社会がこれからは望ましいということだろう。建築のアカデミックな分野でも両方あるべきなのである。













You must be logged in to post a comment.